きもの男子通信

「彼女たちはいまにきっとよくなるにきまっていると思う」(幸田文)

今年読んだ着物の本で、一番面白かったのは、「幸田文 きもの帖」かもしれない。
幸田文 きもの帖幸田文 きもの帖
(2009/04/07)
幸田 文

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それまで、幸田文さんの本はほとんど読んだことがなくて、なんとなく、古きよき(そして厳し目の)日本について書いている人、みたいな風に思っていた。

でも、読んでみるとむしろ、モダンで都会的。今でもこんなに都会的な人はあんまりいないんじゃないかな、と思う。

いろいろ面白い文章が載っているんだけど、今日は大晦日なので「女の正月」という文章から少し紹介したいと思います。

           ☆ ☆ ☆

 職業をもつ女のひとのお正月はどんなものだろう・・・(中略)・・・ 
 私の叔母は明治も早い時期から、ピアノを教えるという新しい職目で身を立てて独立していた。庭は植木屋を入れてきちんと手入れがしてあった。家のなかの掃除は女中がした。掛け軸は春のものがかけてあった。ストーブが燃えていた。叔母はちょいと着かえていた。どこのうちにもある、いわゆる正月のごたごたしたしたくは何もない。ピアノの部屋に輪飾りがさげてあって、それだけだった。音というものを生命にする家の清らかな静けさが、一種の風格のある正月情緒をつくりなおしていた。本来なら簡単すぎてさみしいほどのところだが、反対に叔母の正月は豊富だった。姪や甥の食欲のために惜しみなく用意してある様子だったし、各自に向く贈り物も吉例だった。それは忙しいなかの愛情の贈り物だった。型を破って型を整えたところも明治の骨のおもしろさだ。このごろ思う。職業を持つ孤独なひとの正月には賑やかさを持ち寄らなくてはいけないと。
 
 娘たちのお正月。駅に行くとスキーに行く人たちの活気でむんむんしている。雪で新年をするのは楽しかろう。汽車を待つ間も弾んで弾んで多少荒っぽくなっているのなど、人はしかめ面をするかもしれないが、私は楽しく見る。自分の時代にはできなかったことを、いまの娘さんが喜んでいるのを見ると、心強いかぎりという気がする。ズボンの膝をはっきりとあぐらにしても、脚のつけ根のあたりがこのごろは清潔に処理されているのだから、大丈夫である。私は娘さんたちに期待している。よししんば一年に一度だけ着る和服の着こなしがいくらかぎごちなくとも、彼女たちはいまにきっとよくなるにきまっていると思う。

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